物流業界で働く皆さん、燃料費の高騰や環境規制の厳しさに頭を悩ませていませんか。そんな中、注目を集めているのが天然ガストラックです。
天然ガストラックは、従来のディーゼル車と比べてCO2排出量を約10~20%削減でき、燃料費も抑えられる可能性があります。しかし、導入には車両価格の高さやインフラ整備の課題もあります。
この記事では、天然ガストラックの具体的なメリット5つとデメリット5つを詳しく解説し、価格比較も含めてお伝えします。導入を検討している方の参考になれば幸いです。
天然ガストラックって何?まずは基本を知ろう
天然ガストラックとは、圧縮天然ガス(CNG)や液化天然ガス(LNG)を燃料として走るトラックのことです。普通のガソリンやディーゼル燃料の代わりに、天然ガスを使って走ります。
天然ガスは地下から採掘される化石燃料の一種で、主成分はメタンです。この天然ガスを圧縮したり液化したりして、トラックの燃料タンクに貯蔵します。
天然ガストラックの仕組み
天然ガストラックは、天然ガス専用のエンジンを搭載しています。燃料タンクに貯蔵された天然ガスがエンジンに送られ、空気と混合されて燃焼します。
この燃焼によってピストンが動き、その力でトラックが走る仕組みです。基本的な原理は普通のエンジンと同じですが、天然ガス専用に設計されているのが特徴です。
CNGとLNGの違い
天然ガストラックには、主にCNG車とLNG車の2種類があります。
CNG(圧縮天然ガス)は、天然ガスを約200~250気圧に圧縮したものです。小型から中型のトラックによく使われ、充填時間は約5~20分程度です。
一方、LNG(液化天然ガス)は、天然ガスを-162℃まで冷却して液体にしたものです。体積が気体の約600分の1になるため、より多くの燃料を積むことができます。大型トラックの長距離運行に適しています。
普通のディーゼルトラックとの違い
天然ガストラックとディーゼルトラックの最大の違いは、使用する燃料とエンジンの構造です。
ディーゼルトラックは軽油を燃料とし、圧縮着火エンジンを使用します。一方、天然ガストラックは天然ガスを燃料とし、スパーク点火エンジンを使用することが多いです。
また、排気ガスの成分も大きく異なります。天然ガストラックは、ディーゼル車で問題となる粒子状物質(PM)をほとんど排出しません。
天然ガストラックの5つのメリット
天然ガストラックには、環境面と経済面で大きなメリットがあります。特に長期的な運用を考えると、その恩恵は計り知れません。
1. 環境にやさしい!CO2排出量を大幅カット
天然ガストラックの最大のメリットは、環境への負荷が少ないことです。
CO2排出量は、同クラスのディーゼル車と比べて約10~20%削減できます。さらに、窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)の排出もほぼゼロに近いレベルまで抑えられます。
これは、天然ガスの燃焼特性がディーゼル燃料よりもクリーンだからです。特に都市部での配送業務では、大気汚染の改善に大きく貢献できるでしょう。
2. 燃料費が安い!お財布にもやさしい
天然ガスの価格は、軽油と比べて安定しており、多くの場合でコストメリットがあります。
東京ガスの直営スタンドでは、CNGの基準単位料金が税込み97.00~111.60円/m³となっています。これを軽油換算すると、リッター当たり約60~80円程度の計算になります。
ただし、燃料価格は地域や使用量によって変動するため、導入前には必ず詳細な試算を行うことが大切です。
3. 静かで快適!騒音が少ない運転環境
天然ガストラックは、ディーゼル車と比べて格段に静かです。
エンジンの燃焼音や振動が少なく、ドライバーの疲労軽減につながります。実際に試乗した方からは「静かで力強さもあってよかった」「ディーゼル車に比べて騒音・振動が非常に少ない」といった声が多く聞かれます。
特に早朝や深夜の配送業務では、住宅地での騒音問題を軽減できる大きなメリットがあります。
4. 長距離運行もOK!しっかりとした航続距離
天然ガストラックの航続距離は、ディーゼル車とほぼ同等です。
大型CNG車で約600km、大型LNG車では約1,500kmの走行が可能です。これなら、従来の運行ルートを大きく変更する必要がありません。
充填時間も、小型車で約5分、大型車で約20分程度と、実用的なレベルに収まっています。
5. エネルギー安全保障に貢献!安定した燃料供給
天然ガスは、石油と比べて供給源が多様化されており、価格変動のリスクが比較的小さいです。
また、国内でも一部でバイオガスからの天然ガス製造が始まっており、将来的にはより安定した燃料供給が期待できます。
これにより、燃料費の予算管理がしやすくなり、事業計画も立てやすくなるでしょう。
天然ガストラックの5つのデメリット
メリットが多い天然ガストラックですが、導入にあたってはいくつかの課題もあります。これらを事前に把握しておくことが重要です。
1. 車両価格が高い!初期費用の負担が重い
天然ガストラックの最大のデメリットは、車両価格の高さです。
同クラスのディーゼル車と比べて、100~200万円程度高くなることが一般的です。これは、天然ガス専用のエンジンやガスタンクなど、特殊な部品が必要だからです。
ただし、国や自治体の補助金制度を活用することで、この負担を軽減できる場合があります。
2. ガススタンドが少ない!給油場所に困る
天然ガススタンドの数は、まだまだ限られているのが現状です。
全国的に見ても、運送事業者向けの大型LNGトラック用スタンドは、東京の平和島と大阪の南港東の2カ所しかありません。CNGスタンドも、都市部を中心に少しずつ増えてはいますが、十分とは言えません。
運行ルートを決める際は、必ず充填可能な場所を事前に確認する必要があります。
3. 充填時間が長い!時間効率の問題
天然ガスの充填時間は、軽油と比べて長くなります。
小型車でも約5分、大型車では約20分程度かかります。軽油なら数分で済むところが、その数倍の時間が必要になるため、運行スケジュールへの影響を考慮する必要があります。
特に配送回数の多い業務では、この時間ロスが積み重なって大きな影響となる可能性があります。
4. 積載量への影響!ガスタンクの重量問題
天然ガストラックは、ガスタンクの重量分だけ積載量が減少します。
特にCNG車の場合、高圧ガスタンクは重量があるため、同じ車両総重量の制限内では、ディーゼル車より積める荷物の量が少なくなります。
積載効率を重視する業務では、この点を慎重に検討する必要があります。
5. メンテナンス体制!対応できる工場が限られる
天然ガストラックのメンテナンスは、専門的な知識と設備が必要です。
そのため、対応できる整備工場が限られており、メンテナンス費用が高くなる場合があります。また、故障時の修理に時間がかかることもあります。
導入前には、近隣でメンテナンス対応可能な工場を確認しておくことが大切です。
天然ガストラックの価格比較表
天然ガストラックの価格は、車両サイズや仕様によって大きく異なります。ここでは、主要なクラス別に価格の目安をご紹介します。
小型トラック(2t車クラス)の価格比較
車種タイプ | 価格帯(万円) | ディーゼル車との差額 |
---|---|---|
CNG小型トラック | 400~500 | +100~150万円 |
ディーゼル小型トラック | 250~350 | – |
小型CNGトラックは、いすゞのエルフなどが代表的です。価格は400~500万円程度で、同クラスのディーゼル車より100~150万円高くなります。
中型トラック(4t車クラス)の価格比較
車種タイプ | 価格帯(万円) | ディーゼル車との差額 |
---|---|---|
CNG中型トラック | 600~750 | +150~200万円 |
ディーゼル中型トラック | 400~550 | – |
中型クラスでは、価格差がさらに広がります。CNGトラックは600~750万円程度で、ディーゼル車との差額は150~200万円程度です。
大型トラック(10t車クラス)の価格比較
車種タイプ | 価格帯(万円) | ディーゼル車との差額 |
---|---|---|
CNG大型トラック | 1,200~1,500 | +200~300万円 |
LNG大型トラック | 1,400~1,700 | +300~400万円 |
ディーゼル大型トラック | 900~1,200 | – |
大型クラスでは、CNGとLNGの両方の選択肢があります。CNG車は1,200~1,500万円、LNG車は1,400~1,700万円程度です。
燃料費で比較!どのくらいお得になる?
天然ガストラックの経済性を判断するには、燃料費の比較が重要です。実際の運用コストを詳しく見てみましょう。
1km走行あたりのコスト比較
燃料費を1km走行あたりで比較すると、以下のような結果になります。
燃料タイプ | 1km走行コスト | 燃費 |
---|---|---|
軽油(大型車) | 約25~30円 | 3.5~4.0km/L |
CNG(大型車) | 約20~25円 | 2.5~3.0km/m³ |
LNG(大型車) | 約18~23円 | 3.0~3.5km/m³ |
天然ガスの方が、1km当たり3~7円程度安くなる計算です。ただし、これは燃料価格や車両の燃費性能によって変動します。
年間走行距離別の燃料費シミュレーション
年間走行距離別に、燃料費の差額を計算してみました。
年間走行距離 | ディーゼル車 | CNG車 | 年間差額 |
---|---|---|---|
5万km | 125~150万円 | 100~125万円 | 25万円削減 |
10万km | 250~300万円 | 200~250万円 | 50万円削減 |
15万km | 375~450万円 | 300~375万円 | 75万円削減 |
走行距離が多いほど、燃料費の削減効果が大きくなります。
回収期間の目安
車両価格の差額を燃料費削減で回収するまでの期間は、以下のようになります。
年間走行距離が10万kmの場合、車両価格差200万円を年間50万円の燃料費削減で回収するには、約4年かかる計算です。
ただし、補助金を活用すれば、この期間を短縮できます。
天然ガストラックの導入で使える補助金
天然ガストラックの導入には、さまざまな補助金制度が用意されています。これらを上手に活用することで、初期費用の負担を大幅に軽減できます。
国の補助金制度
国土交通省や環境省では、環境対応車の導入を支援する補助金制度を実施しています。
補助金額は車両価格の一定割合や、ディーゼル車との価格差の一部を補助する形が一般的です。年度によって制度内容が変わるため、最新の情報を確認することが大切です。
地方自治体の補助金
東京ガスでは、2025年度の天然ガス自動車活用支援制度を実施しています。
大型トラックの導入には60万円、中小型トラック・塵芥車の導入には30万円、その他の車両には10万円の支援金が支給されます。申込受付期間は2025年4月1日から2026年2月28日までです。
他の地域でも、独自の補助金制度を設けている自治体があります。
申請時の注意点
補助金の申請には、いくつかの注意点があります。
まず、申請期間が限られており、予算に達し次第終了となることが多いです。また、車両登録前に申請が必要な場合もあるため、購入前に必ず制度内容を確認しましょう。
必要書類の準備にも時間がかかるため、余裕を持って手続きを進めることが重要です。
実際に使っている人の声
天然ガストラックを実際に導入した事業者の声を聞くと、リアルなメリットとデメリットが見えてきます。
導入して良かった点
多くの事業者が挙げるのは、静粛性の高さです。
「ディーゼル車と比べて騒音・振動が非常に少なく、疲労が減るかもしれない」「走行中は静かでストレスを感じなかった」といった声が聞かれます。
また、環境への配慮ができることで、企業イメージの向上につながったという声もあります。
困った点・改善してほしい点
一方で、インフラ面での課題を指摘する声も多いです。
「充填できる場所が限られているため、運行ルートの制約がある」「充填時間が長く、運行効率に影響する」といった意見があります。
また、メンテナンス体制の整備を求める声も聞かれます。
運用のコツ
実際に使っている事業者からは、以下のような運用のコツが聞かれます。
運行ルートを事前にしっかりと計画し、充填可能な場所を把握しておくこと。また、充填時間を考慮したスケジュール管理が重要だということです。
定期的なメンテナンスを怠らず、専門業者との連携を密にすることも大切だと言われています。
天然ガストラックに向いている業種・用途
天然ガストラックは、すべての用途に適しているわけではありません。特に効果的な業種や用途を見てみましょう。
定期便・ルート配送に最適
決まったルートを定期的に走る業務には、天然ガストラックが特に適しています。
ルートが固定されていれば、充填場所の確保も計画しやすく、インフラ面での制約を受けにくいからです。また、走行距離が予測しやすいため、燃料費削減効果も計算しやすくなります。
宅配便や食品配送、産業廃棄物収集などの業務に向いています。
都市部での配送業務
都市部での配送業務では、天然ガストラックの静粛性が大きなメリットになります。
住宅地での早朝・深夜配送でも、騒音問題を気にせずに済みます。また、大気汚染の改善にも貢献できるため、環境意識の高い顧客からの評価も得られるでしょう。
環境配慮が求められる企業
CSR(企業の社会的責任)や ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みが求められる企業にとって、天然ガストラックは有効な選択肢です。
CO2削減目標の達成や、環境報告書での取り組み事例として活用できます。顧客や投資家に対するアピール効果も期待できるでしょう。
導入前に確認したいチェックポイント
天然ガストラックの導入を成功させるには、事前の準備が欠かせません。以下のポイントを必ず確認しましょう。
運行ルート上のガススタンド確認
最も重要なのは、運行ルート上で天然ガスの充填が可能かどうかです。
主要な運行ルートを地図上にプロットし、充填可能な場所を確認します。充填場所までの距離や営業時間、充填能力なども調べておきましょう。
緊急時の代替ルートも含めて、複数の充填場所を把握しておくことが大切です。
車両選びのポイント
用途に応じて、CNGとLNGのどちらが適しているかを判断します。
短距離・中距離の配送が中心ならCNG車、長距離運行が多いならLNG車が適しています。積載量や車両サイズも、業務内容に合わせて選択しましょう。
また、メーカーのアフターサービス体制も重要な選択基準です。
メンテナンス体制の確認
導入前に、近隣で天然ガストラックのメンテナンスに対応できる工場を確認しておきます。
定期点検や故障時の修理体制、部品の調達可能性なども調べておきましょう。メンテナンス費用の見積もりも取っておくと、運用コストの計算に役立ちます。
天然ガストラックの将来性
天然ガストラックは、今後さらに普及が進むと予想されています。技術の進歩とインフラ整備により、使いやすさも向上していくでしょう。
技術の進歩と改良点
エンジン技術の向上により、燃費性能や出力特性が改善されています。
また、ガスタンクの軽量化や充填時間の短縮など、実用性を高める技術開発も進んでいます。将来的には、現在のデメリットの多くが解消される可能性があります。
インフラ整備の動向
天然ガススタンドの整備も徐々に進んでいます。
特に、可搬型LNG充填設備の開発により、設置コストと設置スペースが大幅に削減されました。これにより、物流事業者が自社施設内に充填設備を設置しやすくなっています。
カーボンニュートラルへの貢献
カーボンニュートラルLNGやバイオメタンの活用により、将来的にはCO2排出量をゼロにすることも可能です。
これらの技術が普及すれば、天然ガストラックは真の意味での環境対応車両となるでしょう。
まとめ:天然ガストラックは導入すべき?
今回の記事では、天然ガストラックのメリット・デメリットから価格比較まで詳しく解説しました。以下に要点をまとめます。
- CO2排出量を10~20%削減でき、環境負荷を大幅に軽減できる
- 燃料費は年間25~75万円程度削減できる可能性がある
- 静粛性が高く、ドライバーの疲労軽減と騒音問題の解決につながる
- 車両価格は100~400万円程度高く、初期投資の負担が大きい
- 充填インフラがまだ限られており、運行ルートに制約がある
- 補助金制度を活用すれば、導入コストを大幅に削減できる
- 定期便や都市部配送、環境配慮が求められる企業に特に適している
天然ガストラックは、環境性能と経済性を両立できる優れた選択肢です。ただし、導入には慎重な検討が必要です。
運行ルートやメンテナンス体制を十分に調査し、補助金制度も活用しながら、自社の業務に最適かどうかを判断してください。将来的な技術進歩とインフラ整備を考えると、今後ますます魅力的な選択肢になっていくでしょう。